待機

 ポンド氏は牡蠣を食べていた。──甚だまじめな、見ていてためになる情景である。氏の友人のウォットンには牡蠣の賞味に関心はなかった。ほとんど味のしないものをのみこむのは意味がないという論法である。何かにつけて意味(センス)がないと言うのがウォットンの得意の癖で、しからばたぶんナンセンスがあるのではないかと友人ガーガンがしきりに訊ねても、いっこう通じないのだった。ヒューバート・ウォットン卿にはナンセンスなところが少しもなく、ガーガン大尉にはナンセンスなところが多分にあった。ガーガンも嬉々として牡蠣を食べていたが、これはもともと物事に無頓着なたちで、賞味も関心もあったものではない食べっぷりと見受けられた。彼の前に山と積まれた牡蠣殻からそれと知れるように、まだほんの前菜(オルドゥーヴル)の段階だというのに、後は野となれ山となれと平らげていったのらしい。これに反して、ポンド氏は深い関心を払って賞味していた。羊でも数えるように牡蠣の数を数えながら、細心の注意を払って食べているのだった。
  G. K. チェスタトン「名ざせない名前」 中村保男 訳/『ポンド氏の逆説』(創元推理文庫)所収