2冊の写真集


恵比寿

 牛腸茂雄の写真集『見慣れた街の中で』(1981)をじっくりと鑑賞したい気持ちがこのところ高まっていた。
 道行く人の表情、その仕草や佇まい、あるいはなんとなく写り込んだ背景に、80年代初頭という時代の空気、そしてその中で生きた作者の思いの断片が編みこまれているような気がして。

 恵比寿のナディフで牛腸茂雄『見慣れた街の中で』(新装増補版)を購入。
 インフォメーションコーナーに並んでいる美術展のDMに目を通し、気になったものをいくつかもらってくる。

 帰り際に大手町の丸善に立ち寄る。
 ヴェトナム戦争に取り組んだ写真家、沢田教一の仕事を集成した写真集が出たばかりで平積みしてあった。
 ページを繰っているうちにどうにも気になってきて購入を決める。

 牛腸の写真にこのところ興味を再燃させていた要素は人の表情だったけど、沢田の写真で気になったのもそこに写っている人の表情。
 戦場で作戦行動中の兵士、そして戦場に巻き込まれた地元の人の表情。そして戦場でない市街や農村で生活する人の見せる対照的に感情豊かな表情。
 その戦場の人々の表情が、最近街なかで見かける人たちの顔つきとよく似ている気がした。
 街を歩いていて漠然と神経をそばだてていた感覚はなんだろうと思っていたけれど、ああこの顔だと合点がいった思い。

 数日後、最近の日本の映画やドラマでは感情の抜けた「死んだ目」のできる俳優たちが求められ注目を集めている、といった芸能解説記事を読んだ。