偏愛する短篇推理小説のこと

 推理小説における論理性は絵画における遠近法のようなもので、それを厳格に適用する流儀もあるのは理解するけれど、論理性=遠近法だけで作品が成立するわけではない。

 絵画的描写と文化的説教とテコのきいたトリックが光る、チェスタトンのブラウン神父もの。とくに「折れた剣」「とけない問題」。
 アンチヒューマンなブラックジョークのあまりのヒドさにこみ上げてくる笑いがこらえられない、ロード・ダンセイニ『二壜の調味料』の諸作。
 ハードボイルドでギミックが面白い、ドイルのホームズもの「空家の冒険」。
 そして推理小説とは言えないにしても皮肉と気取りと哀愁のただようハードボイルドとして、フレミングの007もの短篇「ナッソーの夜」「ベルリン脱出」「オクトパシー」など。

 私の好きな海外短篇推理小説を試みにリストアップしてみたものの、我ながらひどい偏向ぶりでそのうえ趣味のよいほうだとも思えない。
 とりあえずフレミングの短篇を読み漁っているくらいならサマセット・モームでも読んだら如何なものか、と私は私に言いたい。

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)

↑ 「折れた剣」収録

ブラウン神父の醜聞 (創元推理文庫 110-5)

ブラウン神父の醜聞 (創元推理文庫 110-5)

↑ 「とけない問題」収録

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

二壜の調味料 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

↑ ブラックな最後の一行が光る表題作は〈奇妙な味〉の逸品として有名

シャーロック・ホームズの帰還 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズの帰還 (新潮文庫)

↑ 「空き家の冒険」所収

007/薔薇と拳銃 (創元推理文庫)

007/薔薇と拳銃 (創元推理文庫)

↑ 「ナッソーの夜」収録

↑ 「ベルリン脱出」「オクトパシー」収録(品切)