現状維持への活動的執着 6

 神父の頭脳は、判断力がなくなってしまったときこそ貴重なのである。こういうときには、神父が二と二を足し算すると四百万の答が出る。カトリック教会は(常識を固く守っているからには)かような離れ業を是認しないことが多かった。神父自身すら是認しないことが多かった。しかし、これは正真正銘の霊感であり、判断力を失った当人が、なんとか判断をつけねばならぬというような滅多にない危急時に際して肝要なのは、この霊感にほかならなぬのだ。
  G. K. チェスタトン「奇妙な足音」 (中村保男 訳・『ブラウン神父の童心』所収)