思い出サルベージ
滋賀県湖南市石部へ、友人である京都の学生が関わっている思い出サルベージプロジェクトのボランティアを見学に行く。
JR草津線の石部駅を降りると、ボランティアのAさんが白いバンで駅前まで迎えに来てくださっていた。
思い出サルベージプロジェクトは、3月の東日本大震災の津波に襲われた東北の浜に流れ着いた泥まみれの写真を1枚1枚洗って、被災者へとお返しするボランティア活動のひとつ。このプロジェクトは、宮城県山元町の被災地を中心に活動している。
泥まみれでごちゃ混ぜになって流れ着いたアルバムの断片から洗い出した写真を、その持ち主やご親族の手に返すため、「思い出サルベージ」では、ナンバリングとデジタル複写によって、検索をより容易にする試みがなされている。
被災地から遠く離れ、生活インフラも整った関西の地で、その活動の一端をお手伝いしようと、被災地からとくに洗浄に手間のかかりそうな写真を郵送してもらったのが、ここ石部の町の有志の方々。
東日本大震災後、関西でのボランティア活動は、お金を出すだけでなく、身体を使ってお手伝いできることをしたいという気運が強いらしい。
そうか、1995年の阪神大震災で神戸が焼け野原になってから、まだ16年しか経っていないのだった。
本当は写真を1枚1枚洗うお手伝いをするつもりだった。
ところが洗浄ボランティア活動への参加者は予想を上回る勢いで増加して、ちょうど昨日、いま現在石部に届いている分の写真を洗浄し終えたところだという。
石部にある洗浄済みの写真は、丁寧にナンバリングされてポケットアルバムに収められ、段ボール箱3箱ほどに収められていた。
当初はこれだけの写真が、いつ洗浄し終わるのかもわからないくらいだったくらいだという。これは嬉しい誤算。
石部への案内を買って出てくれた学生A君は、今晩の夜行バスに乗って、明日から再び被災地の宮城県山元町で、ボランティア活動に精を出すとのこと。
したがって僕は、ボランティア「活動」ではなくて「見学」どまり。
それでも、同行の学生K君とともに、ナンバリング作業をほんの少しだけお手伝いできた。
散々に痛めつけられ、かすれて消えかかりながらもサルベージされた写真に、じかに触れることができた。
日常の断片。旅の記録。冠婚葬祭。入学記念や修学旅行の集合写真。新郎新婦のポートレイト。古い写真に新しい写真。カラー写真にモノクロ写真。赤子の顔、子どもの顔、若者の顔、大人の顔、年寄りの顔。
モノとしての傷ついた写真に生身で接する体験は、被災地の傷跡にじかに触れる心地がする。
とはいえこれは、あくまで間接的な、類推に基づく体験に過ぎない。
とはいえこれは、「写真を通して」被災地を想像するひとつの方法でもある。
石部は旧東海道の宿場町。作業場所になっていた湖南市西庁舎(旧石部町役場)のすぐ向かいには、日本酒「香の泉(かのいずみ)」の蔵元、竹内酒造の酒蔵があった。
そしてお土産に買った香の泉特別純米酒は、「近江の美酒」のうたい文句に恥じない濃厚旨口の女酒。
やさしくゆかしくじつに美味しいお酒。石部の人たちの心持ちをまさしく彷彿とさせる。
京都に寄り道して学生たちと居酒屋に入る。
賀茂ナスの浅漬け、黒豆の枝豆、太刀魚の塩焼き、等。
身体のバテがちな真夏日には、油控えめで野菜中心の肴で日本酒を飲むのがいい。
酔い覚ましに三条河原まで歩いて、学生たちと別れる。川風が涼しい。
JRに乗り継ぐため、山科まで地下鉄に乗る。
山科の線路沿いで見上げた夕月。
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