山本直樹のこと
「この町にはあまり行くところがない」とか「奥さん、いいじゃないですか」とか「ぽつん」といった、90年代後半の山本直樹の短篇漫画(『フラグメンツ』作品群)の魔術的リアリズムについて思いを巡らす。
1995年のカタストロフの後の空虚な残響が遠ざかってゆく宙ぶらりんのリアリズム。90年代後半の山本直樹作品の、さらりとすれ違い消え去ってゆく物語の淡さや、東京郊外だか北海道の田舎町とおぼしきただならぬ空虚さに満たされた背景の気配に心惹かれたのだった。
今でも僕はそれらをとてもきれいな作品群だと感じるのだが、友人知人の共感を得た覚えがない。曰く「ただエロいだけ」なのだそうだ。
そしてゼロ年代の山本直樹作品は90年代後半の静謐さとは味付けが変わり、(いわゆる)現実感の薄い奇妙な人物たちが空騒ぎする、醒めない夢に取り込まれたかのような気持ち悪さが主調を奏でるようになったと思う。2001年を決定的な契機に妄想めいた理由で暴れる力が幅をきかすようになった頃のことだ。
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