種村季弘のこと

 種村季弘展を観たあと図録を読みながら、種村季弘という個性について思いをめぐらせる。
 種村氏は戦時下に入院中、麻酔覚めやらぬなか空襲の爆音を聞きつつ崩壊の感覚を覚えたという。そして空襲で少年期の思い出の生家とその界隈は失われた。終戦後の困窮生活のなかで、物質的貧困と思想的寄る辺なさを根幹に染みわたるまで体感したのであった。それが彼の思惟の地塗りとなったのではなかろうか。
 すなわち、これまで知り得た理屈では今ここにある状況を解釈しえず、それでは先行きなど見通せない。だがしかしココにはいろんなモノとコトとが存在し蠢いている。それを支えうる体系を構築しよう、と。
 ともあれ、澁澤龍彦の洒脱さとは異質な種村季弘の泥臭くもしぶといマニエリスムに感嘆の念をおぼえ、理解と共感とをうながされた次第である。