第122章・家路

 苛々と腹が立ったり、無性に悲しくなったり、ぼんやり気抜けしたまま動けなくなったり。

 調子が悪いときのための頓服薬を就寝前に服用。
 締めつけるようだった側頭部の頭重感が和らいで楽になる。

 それでも寝付きが悪く、布団の中で『特性のない男』を読み進める。

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 たいていの人間は、自分自身との基本的な関係においては物語作家なのだ。彼らは叙情詩を好まない。好んでも、一時だけだ。そして人生の糸の中に「……なるゆえに」とか「……せんがために」という言葉が少々混り込んで、そこに結び目がつけられても、それでも彼らはそれ以上のことに手をのばす考えを嫌悪する。彼らは事実の整然たる連続が必然性に似て見えるために、これを好むのであり、自分の人生には「進路」があるという印象をもつことで、混乱の中でもともかく自分は安全だと感ずるのだ。
  R. ムージル『特性のない男』 第1巻 第2章 第122章・家路 (加藤二郎 訳/松籟社 III. p.177)