ドラキュラと カーミラと

 ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』読了。

>男性ドラキュラ ≒ 窓
 伝説→現代→征伐、の構図。
 男性原理、慰み物としての女性、科学の勝利、因習の排斥、等々。
 そんな徹底したヴィクトリア朝的倫理観・世界観・使命感にやや食傷。
 なるほど、1997年の発表当時この作品が時流に乗り、大流行を示したことは実によく納得できた。
 フリードリヒ・キットラー『グラモフォン・フィルム・タイプライター』で言及されているように、当時の最新メディア(速記法、蝋管録音、タイプライター、等々)への「信仰」も存分に著されている。
 ドラキュラをスチームパンクSFの先駆作品として取り扱うこともできようか。

>女性カーミラ ≒ 鏡
 だがしかし、ドラキュラに先立って著された、レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』(1871-72発表)に、むしろ私は愛着を覚える。
 その結語の、堀辰雄風立ちぬ」(1938年完結)にも響き合う、かそけき後味が絶妙。
 デビット・リンチ「マルホランドドライブ」の謎めいた物語りも、カーミラを下敷きに重ね合わせてみればよくわかる。
 ともに不死者として表される、自己愛ドッペルゲンガーへの、愛着と別離の物語。
 カーミラはまだ生きている。

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)

グラモフォン・フィルム・タイプライター〈上〉 (ちくま学芸文庫)

吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)

吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)

風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)

風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)

マルホランド・ドライブ [DVD]

マルホランド・ドライブ [DVD]