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昨晩ふと、英国怪談を久しぶりに読んでみたくなり、南條竹則・編訳の怪奇小説アンソロジー『怪談の悦び』(創元推理文庫)所収の名品、エリザベス・ボウエン『魔性の夫(つま)』("The Damon Lover")を再読した。
(この作品は岩波文庫『20世紀イギリス短篇選〈上〉』にも別訳で所収されている)
そしてそれだけでは飽き足らず、他にも怪談を読みたくなり、中野善夫・吉村満美子 編訳のアンソロジー『怪奇礼讃』(創元推理文庫)を枕頭の書として再読にあたる。
昨晩読んだのは、同所所収の、J・D・ベリスフォード「のど斬り農場」、A・M・バレイジ「今日と明日のはざまで」、マージョリーボウエン「二時半ちょうどに」の三編。
ところで僕は、英国怪奇小説紹介者としては南條竹則をかっていて、その編訳書をひいきしがちな傾向は自覚している。
それでも以前読んだときにはそれほど気に入っていなかった、この中野・吉村 編訳の『怪奇礼讃』。視点の違いのせいだろうか、今にして読んでみると、どうして味のあるおもしろいアンソロジーだ。
(ともあれこれは、個人的な趣味趣向の問題にすぎません。ご自身の好みを優先していただくのが賢明です。)
そして今日もまた『怪奇礼讃』。
読み落としていたか、忘れていたかして、新鮮な気持ちで、地味ながら滋味あふれる短編を読む。
ダイラン・トマス「祖父さんの家で」と、H・R・ウェイクフィールド「ばあやの話」。
毎度ながらに釈明すると、僕には娯楽読み物として恒常的に英国怪談を欲する習性がある。
怪奇、謎解き、はぐらかしのテクニック。そして何より、人の心が生み出す不安と恐怖のメカニズムの活用の巧みさ。
よく書けた怪談は、なまなかな純文学よりも人の心のキワを的確に描き出してくれるものだし、その鋭さは平凡な大衆小説の比ではない。
だがしかし、ここしばらくは僕の英国怪談愛好癖も遠のいていた。
もしかしたら東日本大震災の余波による一連の不安と恐怖に吞み込まれていたから、なのだろうか。
ともあれ大震災も、すでに漠然とした不安や掛け違えた恐怖の対象より、現実として残された混乱の収束へと関心の焦点は移ってきている。
不安や恐怖に打ち震えている場合ではなく、またカラ元気の励ましが役に立つ時期でもなく、そしてまた不安解消のためのお祭り騒ぎがいつまでも続けられるわけでもない。
10月に入って、僕の裡での東日本大震災の余波とその打ち消しのための衝動は、ある局面を過ぎ越した気がする。
漠然とした主観にすぎないが。
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